「歯を抜かないといけません」と言われると、「かわいそう」「食べられなくなるのでは」と心配になる飼い主様は多いと思います。
でも、抜歯は歯の治療の中でとても大切な選択肢です。抜くのは、痛みと感染の原因を取り除くため。残せる歯はできるだけ残しますが、残すことがその子のためにならない歯もあります。今回は、その線引きについてご説明します。
1. 歯周病が進んでしまった歯
歯周病が進むと、歯を支えている骨(歯槽骨)が溶けていきます。
・支える骨の半分以上が溶けてしまった歯
・大きくぐらついている歯
・根の先に膿がたまっている歯(歯根膿瘍)
こうなると、歯を残しても痛みと炎症が続くだけでなく、上の犬歯では口と鼻がつながってしまう「口腔鼻腔瘻」の原因にもなります。

15歳のチワワちゃんの奥歯。歯石にすっかり覆われてしまい、このあと全顎抜歯を行いました。
本当に怖いのは、歯石そのものではありません。歯石の下で、歯を支える骨(歯槽骨)や顎の骨が、少しずつ溶けていくことです。上の歯では鼻とつながってしまい、下の歯では顎の骨が薄くなって、折れてしまうこともあります。写真のチワワちゃんも、下顎が折れてしまう前に連れてきてもらえて、本当に良かったケースです。
「口が臭くて迷惑をかけるのでは」「恥ずかしい」と思って、なかなか連れてこられなかった、とおっしゃる飼い主様がいます。日本人には、そういうふうに遠慮してしまう方が多いように思います。
でも、私たちスタッフは、本当にそんなことは気にしていません。口の臭いの強さは、それだけ歯周病が進んでいるというサイン。恥ずかしいことでも、迷惑なことでもありません。気になった時点で連れてきてください。
2. 神経が出てしまった歯、神経が死んでしまった歯
硬いものを噛んで歯が大きく欠け、神経(歯髄)が露出してしまった場合、細菌が入り込んで神経が死んでしまうことがあります。根管治療などで残せる場合もありますが、欠け方や根の状態によっては抜歯が適しています。放置すると根の先に膿がたまり、頬が腫れてくることもあります。

3. 根が溶けたり、割れてしまった歯
・猫に多い「歯の吸収病変」(歯が少しずつ溶けていく病気)
・歯の根が縦に割れてしまった歯
これらは修復が難しく、痛みの原因になるため抜歯を行います。
4. 残ってしまった乳歯
永久歯が生えてきたのに乳歯が抜けずに残っていると、歯並びが悪くなったり、その間に汚れがたまって歯周病の原因になったりします。そのため、避妊・去勢手術などのタイミングで抜くことが多いです。
5. そのほか
・歯並びの異常で、口の中を傷つけてしまう歯
・口の中の腫瘍に巻き込まれてしまった歯
なども、状態に応じて抜歯を検討します。
抜くかどうかは、見た目では決まりません
大事なのは、「ぐらついていないから大丈夫」とは言えないことです。歯周病は歯ぐきの下で進むため、見た目では分かりません。当医院では、全身麻酔をかけたうえで歯科用レントゲンを撮り、歯周ポケットの深さを1本ずつ測って、残せる歯と抜く歯を判断します。
抜いたあと、ごはんは食べられる?
飼い主様が一番心配される点ですが、犬や猫は、痛い歯がなくなったあとの方が、かえってよく食べるようになることが多いです。痛みと感染の原因がなくなることが、その子にとって一番の楽になる道であることも少なくありません。
まとめ
・抜歯は「最後の手段」ではなく、痛みと感染を取り除く治療です
・残せる歯は残す。その判断には麻酔下での歯科レントゲン検査が欠かせません
・口臭が強い、歯がぐらつく、硬いものを嫌がる、といった様子があればご相談ください