「歯石取り」というと、歯の表面についた歯石を削って、白くきれいにすることだと思っていませんか?
実は、動物病院で行うスケーリング(歯石除去)の本当の目的は、見た目をきれいにすることではありません。歯ぐきの下、目に見えないところの汚れを取り除き、歯ぐきを健康に保つことです。
2歳でも、もう歯石はついています
写真は、2歳のトイプードルちゃんの奥歯です。若い子でも、小型犬は歯石がつきやすく、気づかないうちに歯ぐきが赤く腫れてきていることがあります。

処置前:奥歯に歯石がつき、歯ぐきにも赤みがあります(2歳・トイプードル)

処置後:歯石を取り除き、最後に研磨して表面をツルツルに仕上げました
この子は早めに処置できたので、歯を抜くことなく、全部残すことができました。ここから毎日の歯磨きで維持していけば、この先も自分の歯で食べ続けられます。
本当のスケーリングで、していること
動物病院のスケーリングは、全身麻酔をかけて行います。中身は次の4つです。
- 検査:歯1本ずつ、歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)の深さを測ります。必要に応じて歯科レントゲンを撮り、歯ぐきの下で骨が溶けていないかを確認します。
- 歯石の除去:超音波の器具で、見えている歯石だけでなく、歯周ポケットの中の歯石や汚れまで取り除きます。
- 研磨(ポリッシング):最後に歯の表面を磨いてツルツルにします。歯石を取る器具で表面には細かい傷がつくので、磨かずに終えると、かえって汚れがつきやすくなってしまいます。
- 記録:どの歯がどんな状態だったかを残し、次回からのケアに生かします。
一番大切なのは、2の「歯周ポケットの中」です。歯周病が進むのは、表面ではなく、歯ぐきの下の見えないところだからです。
なぜ麻酔が必要なのですか?
ポケットの中の汚れを取るには、歯ぐきの下に器具を入れるため、起きたままでは痛みがありますし、動いてしまうと口の中を傷つけて危険です。寝ている間に、痛みなく、安全に、隅々まで処置する。そのために全身麻酔が必要になります。
麻酔がご心配な方は少なくありません。事前の検査で体の状態を確認してから行いますので、心配なことは診察のときに何でも聞いてください(歯を抜く判断について書いた前回のコラムも、あわせてご覧ください)。
見える部分だけの歯石取りでは、足りません
トリミングでの歯磨きや、無麻酔での歯石取りをされている方もいらっしゃると思います。歯磨きの習慣づけとして、それ自体はとても良いことです。
ただ、見えている表面だけをきれいにしても、歯周ポケットの中の汚れは取れません。ポケットの深さを測ることもできません。怖いのは、見た目が白くきれいになることで「うちの子は大丈夫」と安心してしまい、見えないところで歯周病が進んでしまうことです。
表面のケアは毎日の習慣として、ポケットの中は病院の処置で。役割が違う、と思っていただければと思います。
歯磨きは、スケーリングの前から
実は、歯ブラシに慣れる練習は、スケーリングをする前から始めてほしいのです。急に口を触られると、どの子もびっくりしてしまいます。口元を触る、歯に触れる、ブラシを当てる、と少しずつ段階を踏んで慣れておくと、処置のあとのケアがずっと続けやすくなります。
目的は、歯を白くきれいにすることではありません。歯ぐきを健康に保つことです。汚れがたまると歯ぐきが腫れて、やがて歯を支える骨まで溶けていってしまいます。ブラッシングは、これ以上汚れをつけないようにして、歯ぐきを守るためにするものです。ついてしまった歯石は病院で取りますが、つきにくくするのは毎日のブラッシングの役目です。
そして、きれいな状態から始めれば、歯磨きで十分に維持できます。2歳のこの子のように若いうちに一度リセットできると、そのあとのケアがぐっと楽になります。
練習は、看護師と一緒にどうぞ
歯ブラシの練習のしかたが分からないときは、動物看護師のスタッフに何でも聞いてください。ブラシの持ち方、力の入れ具合、その子に合った進め方を、一緒に練習します。
飼い主さんに聞いていただけることは、スタッフにとっても大きな勉強になっています。どうか遠慮なく、どんどん聞いてあげてください。
口臭が気になる、歯が黄色・茶色くなってきた、歯ぐきが赤い、食べにくそうにしている。そんなサインがあれば、若い子でも一度診せてください。早ければ、歯を残せます。